かつてともだちだとしんじてうたがっていなかったきみたちのこと

 私としては、あの細やかな動作、少しうつむいて目をつむること。それは会釈しているつもりなのだよ。うまく私が付き合いきれなくなってしまった、つがいみたくなった君たちのこと、君たちに対して。少し前は全く信じられなかったけれど、これでも少しは受け入れることが出来るようになったはずなのだ。ちょっとは落ち着いて、心の平静を保てるようになってきたはずなのだ。だから、変に思わないでほしい。例えば君たちが二人で楽しんでいるとき、私があなたたちの横を不思議な動作で通ること。私は別に、別に、君たちのことが嫌いなのではなくって。

 

 帰り、とある部屋への道すがら。通りすがり、君たちに会ったよ。顔を合わせた。すれ違った。君たちはおうちに帰るためにその廊下を歩いていて、身を寄せ合いながら。わたしは君たちがついさっき発った部屋へ忘れ物を取りに戻るためだった。君たちは何か話していたのだろうか? そのこと、わたしには定かでなかった。いくら私の耳がよいといっても、他者の、声を潜めあった、密やかな話が聞こえるほどでないので。 君たちもまた、少し下を向いていて、そう言えば。今考えると、君たちに私の姿は見えていたのだろうか? 見えていなかったかもしれないね。私の、自意識過剰な考え込みだったのかも。それでも、その瞬間、わたし、君たちが私の存在を認めたと思い込んで、数瞬、フリーズして、どうして自分はこの道を、このタイミングで歩こうとしてしまったのか、悔やんだ。しんどい、と思った。そして私、何故だか「へいきなふり」をしなくてはいけない気になって、声。かけたほうがいいのかなと思いつつ、でもさすがに不可能で、だから私は会釈をした。小さいものだ、それが礼かもわからないくらいの。君たちと距離が、すれ違うわけだからどんどん近づいて行って、肩と肩が一瞬、一直線上に並んで。そして離れる、そのタイミング、わたしは思い切りスキップした。スキップして、ちいさくあぁ、とか言っちゃって。何でもないように、ふるまいたがった。私は、平気です、きみたちのことなんか、なんにも。まぁ、その空威張りも、数秒後に聞こえてきた君たちの笑い声の、前にガラガラと崩れさっていったのだけど。

 

 もう一回言わせて、きらいなわけじゃあないのだよ。ただ、君たち二人のこと、直視できなくなってしまっただけで。